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「おつかれ」

騎士団の後輩にねだられて始めた模擬戦は速水の圧勝で終わった。
窮屈なコクピットから解放されて一息ついていると、穏やかな表情を浮かべた男が歩み寄る。

「見てたのか」

尋ねると、うんと頷いてその男は速水を見上げた。

「相変わらず強いな」

ぽつ、と呟くような声音に笑う。

「その気になればお前の方が強いだろ」

才能には溢れている筈だ。
何せ、一介の騎士の速水と違って目の前の男は王であり、騎士なのだから。

「……戦いは、苦手だ」
「そう言えば―――血が嫌いな行灯君だったなあ?」

年齢に似合わず唇を尖らせて言うのに向かってにやりと笑って見せた。

「うるさい……行灯って呼ぶな」

男……行灯こと田口とは某国の大学で知り合った。
速水は仕官先を探す為、田口は国を継ぐ為の留学で立場も身分も違ったが不思議と気が合ったのを覚えている。
長期休暇で帰国する田口に物見遊山気分で付いて来て、そのまま仕官してしまう程に。

「ああ、そうだ」

休憩も終わりだからと、帰ろうとした背中に声を掛けた。
何だ?と、胡乱な眼で見上げてくるその耳許に唇を寄せる。

「今晩空けとけよ?」

囁くと見事なまでに紅くなった顔で馬鹿野郎と罵られた。

「お前、いつまでもそんな事言ってないでいい加減に特定のファティマなり女性なり作れよ」
「い・や・だ」

誰が田口以外を口説くか、と思う。
20数年、特定のパートナーを持たない理由は目の前のこの男だ。

「―――仕方のない奴だな」

呆れたように微笑う、人の上に立つようになっても変わらない彼に惚れたのだ。
ひら、と手を振って立ち去る姿に背を向ける。
取り付けた逢瀬の約束は、どんな戦闘の勝利よりも速水を高揚させた。









どちらもヘッドライナー設定。ファティマが似合わないと思ってしまったので。
行灯も将軍も特定のファティマは居ないので、エトラムルを使用していると思われます。






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