浴衣






「ねえママ、ちゃんと着れてるかな?変じゃない?」

リビングでアイスティーを片手に寛いでいた育子は娘の声に視線を巡らせた。
2,3日前に娘が買って来た、黒地に大輪の華が咲く大人びた浴衣は、まだ少し早いのではと思った予想を裏切って驚くほど良く似合っている。
子供は親の知らない内に成長する物だと変な所で感心した。

「大丈夫、変じゃないわよ」

濃いピンクの帯はどうやら最初から結ばれている作り帯のようで、便利な世の中ねえと心の内で呟く。

「本当?良かったぁ。今日の花火、絶対浴衣で行きたかったから」
「ちょっとうさぎ、せっかく浴衣なのに髪はいつものままで行く気なの?」

こくり、と頷いた娘に育子はため息をついた。
折角の大人びた風情なのだし、うっすらと化粧をしているこの様子ではデートだろうから、それではもったいない。

「ちょっとこっちへいらっしゃい」

素直に近寄ってきた娘のお団子頭をほどき、器用に編み込みを作ってからサイドで柔らかく髪をまとめてリボンで飾ってやる。

「はい、出来た」
「ありがとう、ママ!」

嬉しそうに笑う娘の背中をぽん、と叩いて絆創膏を差し出す。

「痛くなるだろうから持って行きなさい」

素直に受け取った娘はリビングの時計を見て、あ、と声を出した。

「もうこんな時間なの〜!?はるかさん、迎えに来ちゃう〜〜、ママ、行ってきます」

慌てふためいて巾着片手に駆けだして行ったその背中にやれやれと苦笑する。

「転ばないように気をつけるのよ〜」

のんびりと声を掛けると育子は自分も時計を見て、夕食の支度に取り掛かった。

「……あら?」

とんとんとん、と大根を切りながらふと首をかしげる。
娘の彼氏の名前はどうやらはるかと言うらしい。

「変ねえ……前は違った気がするけど」

まあいいか、と呟いて大根の千切りに意識を戻したのだった。














花火デートに協力的な育子ママのお話。