Violet Moon







遠い遠い昔の事。
プリンセスは、クイーンの執務室に迷い込んだ事があった。
そこで目にしたのは月から遠く離れた星の映像。
少女とも少年ともつかない戦士が一人、孤独に闘っている映像に彼女の瞳はくぎ付けになった。
襲い来る、何とも形容しがたいモノを薙ぎ払い、倒すその姿。

「……」

綺麗だと思った。
負わされた傷を物ともせず、果敢に立ち向かい勝利を収める姿は書物で読んだ英雄にも見えて。
プリンセスは、その場に座り込んで首を傾げた。
英雄なら、誰かが讃えなければならない。
本来なら母であるクイーンが讃え、労うのだろうが、今現在はこの場に居ない。
ならば。

「遠い星の、名前も知らない英雄さん……」

呟いて、映像に手を当てた。

『……っ?』

驚いたように見開かれる戦士の瞳。
傷が塞がれ、流された血が消えていく。

『誰か、いるのか?』

きっ、とこちらを睨み据える双眸にプリンセスは心奪われた。

「……綺麗な、声……」

うっとりと呟く。

『……?…まさか……』

映像の中が慌ただしくなり、やがて戦士は慌てて跪いた。

『どうぞ、お姿を現し下さいますよう…』

その姿にプリンセスは戸惑い。
けれど指は自然に動いて、コントロールパネルを操る。

「あなたは誰?」

自分が相手に見えるように操作を終えてから言葉を紡ぐと、戦士は驚いたように顔を上げた。

『……まさか……』
「私はセレニティ……ねえ、あなたはだあれ?」

亜麻色の髪と涼しげな瞳。
恐ろしく整った中性的な容貌。
その手に持つ剣すら美しく、プリンセスを魅了する。

『私の名は……ウラヌスと。天王星を守護に持つ戦士です』
「ウラヌスは強いのね、まるで物語の騎士様や英雄様みたい」

無邪気に笑うプリンセス。
その笑顔をウラヌスは眩しげに見ていた。

『おほめにあずかり光栄です、プリンセス』

口元を柔らかく綻ばせたウラヌスにプリンセスはそっと立ち上がる。

「今ここに、剣はないけど……」

代わりに手にしたロッド。

『―――!』

映像に映るその両肩に交互に当てる、それは騎士を英雄を讃える王の儀式。

『……プリンセス……』

生まれながらの王者の輝きは、ウラヌスを魅了した。
決して、手が届かないと分かっていても。
そうして幼い恋は密かに、互いの胸に芽生えたのだ。

『プリンセスセレニティ……我が剣を貴女に。―――我が永遠の忠誠を貴女に捧げます…』

完璧な騎士の礼を、ウラヌスはセレニティに捧げた。











前世話。
英雄が出てきたのは、宮部みゆきさんの「英雄の書」の影響で、騎士が出てきたのは榛名しおりさんの「王女リーズ」の影響です。
影響されまくりだなあ……。