Violet Moon






心地良い、初夏の風が吹く夜だった。
空には淡く輝く月が昇り、優しい光を地上に届けている。
その中を、はるかは一人歩いていた。
明日、彼の……彼らのプリンセスが結婚し、即位を果たす。
本来であれば待ち望んでいた事の筈だった。
その為に生まれ変わってきたと言っても過言ではない。
なのに。


「まったく……女々しいな、嫌になるほど」

いつの間にか恋へと変化を遂げていた想い。
何度も断ち切ろうとしたのに、結局今日まで引き摺って来てしまった。
いつの間にかたどり着いた十番公園。
余すところなく降り注ぐ月の光をはるかは睨み付けた。
忘れられない。。
そんな事は分かり切っていたはずなのに。

「……うさぎ……」

もうひとつの性を選んでいれば、苦しまなかっただろうか。
忘れる事が出来ていただろうか。
整った顔がくしゃり、と歪む。そんな事は有り得ないと、分かっているから。
欲しくて欲しくて。けれど手を伸ばす事が許されない恋。
決まった未来がある。護らなければならない世界がある。
どんなに愛しくても、恋しくても、耐えるしかない事を知っていて尚。

「君を愛しているよ」

伝えてはならない想いを、はるかは呟いた。

「君だけをずっと、心の底から愛している」

射し込む月の光。かつて、孤独の中何度も励まされ、勇気付けられた暖かい光。
輝く光の中、喪失の痛みに顔を上げる事も出来ず一人佇む。
彼の言葉を聞く者があるなんて、気づく事も出来ず、ただ一人。















次で、終わるといいなあ……。