Violet Moon






ふと、視線を感じた。
……振りかえる先にはあの人。
真剣な瞳で、こちらを見つめる綺麗な人。
少しだけ、恐怖を感じてしまった。
けれどそれは彼に対してではなく、自分に対してではあったけれど……。
隣に立つ人の腕をとる。
前世からの恋人。
これからの生を共に生きるはずの、人…。
なのにどうしてだろう。

「………」

どうして、私はあの人にときめいてしまうのだろう………。





「うさぎちゃん、いよいよね。緊張してない?」

黒猫のルナが少しだけ心配そうにうさぎを覗きこむ。

「うん………、結構…緊張してるかも……」

結婚式を明日に控えて、同時にそれが即位も兼ねているとなれば緊張しないわけがない。
明日、東京はクリスタルトーキョーへと姿を変える。
そして金の髪のプリンセスはクイーンへと。

「眠れなかったらどうしよう」

正直なところを言ってしまえば、逃げ出したい。
本当はまだ、揺れている。
このままで自分は後悔しないのだろうかと。
……ワタシハ、ホントウニ、アノヒトガスキナノ……?
思い浮かぶ疑問は何度も何度も打ち消してきた物だった。
前世、彼と会う為だけに地球に降りたち、挙句の果てに世界を滅ぼしたほどの恋だったはずなのに。
この空虚さは一体何なのだろう。

「大丈夫?うさぎちゃん……」

心配そうに見上げる黒猫を安心させるようにうさぎは笑みを浮かべる。

「ちょっと、一人で散歩してくるね。緊張しすぎてるみたいだから」
「夜道は危ないわよ、一緒に行くわ」
「あたしを誰だと思ってるの?ルナ。天下無敵のセーラームーンなのよ?」

悪戯っぽく言ってみせると、不承不承ながらルナは頷き、そしてうさぎは静かに自宅を抜けだした。











迷えるプリンセス。続きます。