思案の外






友人だと思っていた。
大学で出会ってから二十年。
就職し、同じ職場と言えど滅多に顔を合わせなくなった彼との関係は同期で友人。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
そしてその関係はこれからも続いていくのだと、何ひとつ疑う事無く信じていた。


桜の咲く下、彼が走っている。
日頃のんびりとした風情を漂わせている男が走るなんて珍しい。
何となく目で追っていると、彼の走る先に一人の男が居た。
どこかで見た気がしたが、やがてその男がつい先日まで同じ病院の外科医だった事を思い出す。
速水の居る救命救急とは畑の違う、バチスタ手術という分野で栄光を勝ち取っていた男だ。
追いついた先でのんびりと何事か話しながら歩く様子に何故か苛立つ。
彼の……田口の横を歩くのは自分でありたかった。
他の人間に譲るなど考えたくもなかった。

「……っ」

激しい独占欲。
ああ、そうかと納得する。
この想いは。
この感情は。

「なるほど………」

学生時代から抱き続けた感情の正体に気付いて笑った。





「―――まったく、厄介だな」





恋は思案の外と言うのは全くだと速水は呟いた。







原作黄本後。
将軍が自分の想いに気付いたお話。