海。
遠くで、白波が立っていた。
ふと呟かれた、主の言葉。
それを聞き逃さず、ロキはこの海辺に彼女を誘ったのだ。
「……夜の海は、綺麗ね」
闇の中に浮かび上がる水飛沫。
波打ち際をそぞろ歩きながらルーシィがぽつりと言う。
「うん、そうだね」
ロキは静かに答えた。
金糸の髪をかきあげるルーシィの手に、フェアリーテイルの紋章はない。
今の彼女は若くして成功し、ハートフィリア家を再興した実業家だ。
「ギルドの壮行会を思い出すね」
「……戻りたいかい?」
尋ねるとゆるりと首を振る。
「思い出しただけよ、懐かしいなって。―――そうね、楽しかったわ、あの頃は」
目を細める彼女が酷く華奢に見えた。
「寒いわね」
夏が終わりを告げ、秋がやってきている。
「帰ろう、ルーシィ」
手を伸ばす。
本当はこうやって、寄り添って守ってやらなければならないほど主が弱くない事は知っている。
それでもロキは手を伸ばすのだ、何があっても失いたくないから。
「そうね、帰ろうか……あたしたちの家に」
ゆっくりと微笑んだルーシィの唇にロキは己のそれを重ねる。
触れるだけのキスを贈ると、真っ赤になった彼女はひとしきり口の中で悪態をついた。
ロキルーの理想
いつまでも一緒に居て欲しい。