Reue








マリナは呆然としていた。
何故抱きしめられて、キスをされているのか分からない。
憎まれ、責められるのならわかるのだ。
もしくは冷たく無視されるのなら。
なのに今、自分は彼の唇を受けている。
彼の腕の中、身動きする事も出来ないほど抱き締められている。

ねえ、どうして?……シャルル……?

7年前、マリナは子供だった。
シャルルを選んでおきながら、目の前に和矢が現れた途端、心が塗り替えられる程に。
小菅からの帰り道、彼女は確かに幸せだった。
けれど。
そんな彼女の幸せは呆気ないほど簡単に崩れたのだ。
一人で過ごすアパートの部屋。
漫画を描いていてふと気付く、ちょっとした物音。
頻繁にかかってくる無言電話。
最初は気味が悪い、程度の事象だった。
外出から戻った時に感じる違和感。
何かが微妙に狂っている感覚。
そんな日々を過ごす内、『彼ら』が接触してきた。

「君がアルディ家を離れた時に、全ては決まった」
「今僕達の手から逃れられても、君の運命は決まっている」

銃を手に『彼ら』は笑う。

「アルディを離れなければ良かったのに。カズヤ・クロスを選ばなければ君は平穏に生きていられた」

嘲る口調が怖くて必死で走った。
そうして、逃げて逃げて―――マリナはそれまでの全てを失った。

ぼろぼろになったマリナを救ってくれたのは、一人の女性だった。
日系アメリカ人の彼女はマリナの覚束ない英語を気にもせず、事情を理解して、今の会社に推薦してくれたのだ。
その頃の事をマリナ自身は死に物狂いの日々だったとしか覚えていない。
お世辞にも良いとは言えない運動神経の為に事務方に廻される事は決定していたが身を護る為の術を会社と恩人の女性は叩きこんでくれた。
銃器の扱い、爆弾の解体から英語、仏語、露語、伊語、独語の学習(英語以外の発音はいまだに怪しい)まで。
マリナは必死でそれらをこなし、他の事はともかく爆弾解体の分野で才能を認められるまでになった。
そうして何とか落ち着くことが出来たのはそんな生活を始めて3年目。
気付けば追っ手の気配を感じる事も少なくなり、表面上は平穏な日々が過ぎていく。
そんな毎日の中でやっと冷静になって過去を振り返った時、自分がした事に彼女は青ざめた。
自己嫌悪でどうにかなりそうだった。
だから誰にも会えなかった、連絡を取ることも出来なかった。
出来れば―――――――――彼らの記憶から消えてしまいたかったのに。









実を言うと、シャルルとマリナの恋になるか不明。
シャルルはマリナを想っているのは確定。
だけどマリナの感情が不確定な上に、ほぼ確定しているラストの場面が場面だけに……。