Reue








身支度を整えてドアを開ける。
職場に向かおうと足を踏み出しかけて、カークは回れ右をしたくなった。
何故ならば。
絶対零度の空気を纏わりつかせた、シャルル・ドゥ・アルディが彼の前に立っていたからである。

「……昨夜のアレは何だ?」

ごくごく短い質問が彼の不機嫌を物語っていた。
つくづく思う、美形が本気で怒ると怖い。

「具体的に何が聞きたいんだ?」
質問に質問で返したのがお気に召さなかったらしい。
だが、譲るわけにはいかなかった。

「――――――どこで会った?」
「その質問には答えられない」

それでも、昨日のカークの行動を調べれば見当はつく筈だ。

「君は手放した、それだけだと思っているだろう」
「けれど……彼女は知りすぎていた」

それだけだ、と突き放す。
いつも冷静な目の前の男が我を失っている風体なのがおかしかった。
そんなに取り乱すなら手放さなければ良かったのだ。

「―――アルディ、か……っ」

きり、と噛み締められた唇。
今にも血が滴り落ちそうなそれに目をやってカークは自嘲の笑みを浮かべた。

「情けないことに、オレでは力になってやれそうもない。……頼む、シャルル」

君は知らないだろう、オレがどんなに自分を不甲斐なく思っているか。
嘗ての愛しい人を救う術を持たず、君に託すしかないオレがどんなに惨めか。
攫って行け、と思う。
今度こそ手放さずに誰の手も届かない所へ、彼女を。

「……」

気付くとシャルルは立ち去っていた。
まるでこの場にいたのが幻であるかのように。

「マリナ……君の幸せを祈るよ、心から……」










やっとのことでシャルル登場。
でもこの人かなり難しい。