Reue








マリナ・イケダ、か…。
カークは口の中でその名前を呟く。
誰にも知られたくないと、彼女は言った。
よほどの事情だろうと思う。
今彼女がいる企業にしても、普通の少女が就く職業ではない。

「軍用ポート…ね……」

そこまでして出入国を隠す理由。
ふと、気付く。

「口封じ…?」

7年前の騒動に深く関わって、誰よりも事情を知っている彼女は危険人物だ。
表面上は静まり返っていたとしても、誰かが危険だと判断すれば手を下そうとするだろう。
力になってやりたい。
だが、ここで騒ぎ立てれば彼女の存在がくっきりと浮かび上がってしまう。
オレでは、歯が立たない……。
彼は軽く唇を噛んだ。
そうしてから、携帯を取り出し滅多に掛けない番号を呼び出す。
やがて、不機嫌で冷ややかな声が応答した事に密かに詰めていた息を吐き出した。

「君が忙しくて時間が無い事は知ってる、だから一度しか言わない」
「―――7年前に君が手放した、あの行為は間違いだった」
「幸せを願うなら手放してはいけなかった。……変えたのは、君の責任だ」

言うだけ言って通話を切り、ついでに電源を落とす。
あの青年が動くかもしれない、動かないかもしれない。
これは賭けだ。彼女を救えるのは彼だけだから。



夜は、更けて行く。



知人からの突然の着信と、一方的な通話。
凍りつくような美貌の青年は微かに表情を歪めた。
何を血迷ったのか、と思う。
既に彼の中であの日々は一欠片の輝きすら持たない出来事になっていた。
だが。

「……間違って、いた…?」

その一点が引っかかる。
電話の主は名前を出さなかった、仄めかしただけだ。

「何を、間違えたと言うんだ………?」

その呟きを聞く者はいない。
絶対の自信を持って間違っていないと言える、その筈だ。
彼は完璧だ。誰もがそう認める。
けれど今、微かにそれが揺らごうとしていた。











投稿した時はこれと再会話とで1話にまとめましたが実は間にもう1話があったという。
バッドエンドだと思った為、とりあえず再会の幸せ?なシーンで終わらせようと無理やりにカットしたのでした。