Reue






「マリナ!こっちに来てるなら来てるで、何で連絡してくれないんだ?!」

そんな言葉と共にオフィスへ乗り込んできたカークを見て、マリナは乾いた笑いを洩らす。
ああ……面倒くさい……
友人はおろか、家族にも居場所を告げず行方をくらませ続けた自分が悪いとは言え、よりにもよって何でこの地でばれたのか。
まあ、カーク一人ならば丸め込めるだろう、そう踏んで応接室に彼を通す。

「久しぶりね、7年ぶりかしら?カーク」

にっこり笑って握手を求めると、彼ははっとしてから右手を差し出してきた。

「……悪かった、オフィスで騒いだりして…だが、心配したんだぞ、ヒビキヤから連絡が一切取れなくなってるって聞いてたし」
「うん、ごめんなさい」

降りる沈黙。
どう、切りだそうかと暫く考え。

「えーと……ね、あたしがここに居るって事は内緒にしてほしいの。誰にも言わないで、くれる?」

マリナは行方不明だった7年間の間に身につけた、護身の為の仕草を披露する。
すなわち、上目遣いの視線を潤んだ瞳で対象に向ける……相手の庇護欲を掻きたてる幼子の仕草。
大方の西洋人からは子供のように見える東洋人がそんな仕草を見せればまさに子供そのもの。

「…………マリナ……それは……」
「お願い、聞いてくれるわよ、ね?」
「えーと……」

駄目押しをしてみるとカークは不承不承頷いた。

「良かった!有難う、カーク」
「でもマリナ、君一体……」

出入国管理局に問い合わせたら、曖昧な返事しか帰ってこなかったけど、どうやって入国したんだ?
そう尋ねられて、舌を出す。

「軍用ポート使って、特別パスだから、そっちには記録残ってないと思うわ」

今回のパリ渡航命令の引換条件がそれだった。
どうあっても、過去の友人達に居場所を知られたくない。

「ごめんね、ちょっと事情があって……知られたくなかったの、あたしがここに居るって」

まっすぐに自分を見て言い放つマリナの目を見返して、カークは彼女の変化に気付いた。
あの頃、視力を補うためにかけていた眼鏡はそこになく、ただ幼いばかりだった表情は微かな闇を纏っている。
頭の大きさは変わっていないが―――身長が伸びたのだろうか、昔よりは目立たなくなっていた。

「いつまで、パリに?」
「さあ?今の所帰還命令が出てないから……多分半年はいると思うのよ、でも具体的にはわかんない」

7年の歳月は長い。
彼はそう思った。
あの頃のマリナはただ眩しかった。
今のように、闇に彩られた光ではなかったのに。
なぜ、こんな風に変わってしまったのだろう。
けれど、それは彼が聞いて良い事ではなかった。だから、代わりに口にする。

「そうか……わかった。じゃあ、ここにずっといるわけじゃないんだな?」
「ええ、そうよ。本部に帰ると思うわ、具体的には決まってないけど」

帰る時は一言言ってくれよ、と笑うとマリナも笑った。

「その時は、報告するわね」



帰宅した自室で、マリナはぐったりとソファに座りこむ。
カークは気づいただろうか、彼が話す日本語にずっと英語で答えていた自分に。
目を閉じて、今日のミスを洗い出す。
1つ、寝起きをリュシに見られた事、1つ、カークと接触してしまった事。
1つ、……どうせ接触するなら………と接触したかった、と思ってしまった事……。
懐かしすぎて、恋しすぎて、名前さえ言葉にできない。
放り出したバッグから鈍い銀に光る拳銃を取り出し、抱きしめる。
現在も…7年前も。
これだけがマリナの救いだった。






微妙に言い回しを変えてみたり。
マリナが何か別人。