Reue






早朝、5時。
朝もやの立ち込める中、二人の娘がパリの街中を歩いていた。

「リーナ、あんた相変わらずあんな物抱きしめて寝てるのね」

金の髪の娘が連れに向かって言う。

「……リュシ、あたしの名前はリーナじゃないって何度言ったら分かるのよ」

それに、銃を抱きしめて寝て、何が悪いの?
リーナと呼ばれた娘が英語で返す。

「悪くないわよ、リーナ。でもそれじゃ男が寄りつかないわよ?」
「余計なお世話よ、リュシエンヌ・ジャクリーン・フランソワーズ?」

小柄な体躯。若干頭でっかちなシルエット。
茶色の髪、瞳。
明らかに東洋系の姿をした娘と一般的欧米人の金髪の娘がフランス語と英語で会話を続ける光景はかなり異質だった。

「……分かったわよ、マリナ。分かったからそろそろフランス語で話してよ、なんで英語なわけ?」
「嫌よ、絶対フランス語なんか使わないわ」

つん、と顔を背ける。

「昔散々な目にあったのよ。だからパリは嫌だって言ったのに……」
「命令じゃ逆らえませんって?」

くすりと笑ってリュシがもう一度彼女をリーナと呼んだ。

「―――そうよ、命令には逆らえないわ、今の所除隊する気もないし」

諦めたように答えると、首をかしげる。

「そろそろ…かしらね?」
「そうね、そっち風に言うとプレイボール…って所ね」

街角の食料品店に目をやり、戦闘が始まった事を確認すると娘達は油断なく周囲に目を配った。
5分も経過しないうちに銃撃戦は終わり、耳元のレシーバーから指揮官の戦闘終了報告が入る。

「じゃ、行きましょうか」

ゲームセット、の言葉と共に事後処理をするべく仕事にかかる。
市警、軍隊その他もろもろ公共機関との事前、事後の交渉は事務部門の仕事だ。
マリナは今回の作戦担当事務官でリュシはその補佐を務めるべく現場に直行したのだけれど。
彼女の様子がどうもおかしい、とリュシは内心で溜め息をつく。
2週間前、パリ支部の立ち上げという名目で合衆国オペセンから特別配属されてきたメンバーの中にマリナがいた。
実行部隊のリュシとは入社時期が一緒で、訓練所時代は共に苦労した仲間である。
気心も知れているし、彼女の母国での活動でもないし、はて何をそんなにピリピリしてるのだろう。

「作戦終了の報告はこちらです、追って詳細は書面にて届けられます。こちらの損壊率は1%、人質救出及び犯人確保の依頼内容は達成しました」

極めて事務的に市警の担当者と話を済ませ、何だか落ち付かない様子でマリナは走って来る。

「どしたの、リーナってば……何でそんなに慌ててるのよ?」
「まずいのよ……市警の中に知り合いがいたの!」

押し殺した声でばれないように身を縮めながら訴える彼女をかばってやりながら撤収する部隊に紛れこむ。

「へえ、市警に?どれ?」
「あそこ……長髪で、浅黒い肌してる……」

早口で告げる特徴に振りかえって確認するとリュシは軽く口笛を吹いた。

「へえ、結構カッコイイじゃない?」

元カレ?

「旧い友達。カーク・フランシス・ルーカスって言うの……いい人よ」
「ふーん……って、あんたひょっとして、行方不明扱いかなんかされてるんじゃない?なんかこっち指さして騒いでるわよ?」
「…………げ……」

走る車の窓からマリナがその有様を覗き見して低く呻く。

「だから、嫌だったのよ…………パリなんて……」

リュシは頭を抱える同期にむかって、『天使のような』笑みを向けた。

「ご愁傷様。リーナ」










某所に投稿してた話のタイトルを変えて。
漫画家マリナシリーズ、シャルル×マリナです。
これのせいでこっちの更新が全部止まってたと言う……。
バッドエンド確定なんでこちらに引っ越しさせてきましたがひょっとしたらハッピーエンドになるかも……。
リュシはフランス語、マリナは英語で喋ってます。