長い長い日々だった。

ルーシィは一つ、大きな息を吐く。
今日こそは言おう。
そう思って、けれど言えなくて、ここまで来てしまった。

「―――契約の解除を」

もっと早くにするべきだった、愛しい星霊達との別離。
彼女の命はもう僅かしか残っていない。
艶やかな金の髪。
澄み切った瞳。白い肌。
星霊達を愛し、愛された星霊魔導士。
けれども確実にやってくる、人としての終わりの時。

「今まで、ありがとう」

契約した星霊達を一体ずつ呼び出し。
別れを告げる。
古馴染みの……母から受け継いだ星霊であるアクエリアス、タウロス、キャンサーは最後に優しい抱擁をくれた。
アリエスやジェミニやリラにいたっては泣きじゃくって言葉になっていなかった。
バルゴはちょっと痛みをこらえるような顔で、お仕置きですか、といつもの台詞。
長い人生を友として歩んでくれた星霊達に、ルーシィは心からの笑みを向ける。

「ありがとう、大好きよ」

彼らともっと一緒に居たかったけれど。
長い長い人生を彼らと共に生きた事は彼女の誇り。
そして。

「………開け、獅子宮の扉………」

一番大事な、『彼』を最後に呼び出した。
最強の星霊である彼は、いつもの笑顔を浮かべてルーシィの元に降り立つ。

「やあ、ルーシィ。今日も綺麗だね」
「……あんたは、今日も変わらないのね」

呆れた体を装ってルーシィも笑った。

「今まで、ありがとう。いつも護ってくれて…いつも、一緒に戦ってくれて、傍に居てくれて、嬉しかった」
「ルーシィ」

長い人生の中で、いくつもの恋をした。
本気で一生を共にしようと思った相手もいたけれど、結局最後まで踏み切れなかった主たる原因の彼。

「僕は、ルーシィだけの星霊だよ。今までも、これから先も」

優しい口調で、サングラスの奥の瞳も穏やかな光をたたえたままのロキにルーシィは苦笑する。

「ダメよ、ロキ。あなたがそう望んでも、もう私の生命は残っていない」

次の主を見つけなさい。
そう囁く彼女を眩しそうに見つめ、獅子座の星霊は一筋の涙を流した。
まったく変わらないその姿に、ルーシィは過ぎ去った日々を思いだす。
ギルドで共に過ごした懐かしい魔導士達の姿。
『ロキ』の姿を取る星霊、『レオ』が自分と契約した日。

「ごめんね、ルーシィ」

『ロキ』が不意に『レオ』の姿へと変化する。

「君がいなくなっても……僕はもう誰とも契約しないよ」

いつか僕が滅びるその日まで、僕は君だけの星霊だ、と。
その端正な顔に哀しみをたたえたまま。

「ロキ…」

仕方ない、とルーシィは微笑った。

「……わかったわ、ロキ……ごめんね、いつまでも一緒にいられなくて」

人間で、ごめんなさい。
そして。

「ありがとう、あなたに会えて良かった。幸せだった。ずっと言おうと思っていて、言えなかったの」

最期まで隠しておこうと思っていた本当の気持ちを、この優しい星霊に告げる。

「愛していたわ、ロキ。今までも、これからも、ずっと、あなただけを愛しているわ」

彼女の初恋だった。
あまりにも幼すぎて、気付いた時には告げる事も出来なくて。
それからいくつもの恋愛を経験しても、いつも心の片隅にあった想いは結局消える事はなかった。

「ルーシィ……!」

力強い腕に抱きしめられる。
ロキはその言葉を長い間、待ち続けていた。
報われない想いだと半ば諦めながら、ずっと。

「ごめんね、あと少ししか残ってないけど……傍に居てね、私を見送ってね」
「君が嫌だと言っても。死んでも離れない、離さないよ、ルーシィ」

ずっと、愛していたよ。ルーシィ。
ロキの言葉にルーシィは幸せそうに微笑んで、その身体から力を抜いた。





数日の後、ルーシィが息を引き取るその時までロキは彼女の傍を離れなかった。
彼女が死んだ後も人間界に留まり続け、やがて3年後、星空から獅子座の姿が消え失せたのだった。













最初に書いたFTが何でコレなのか……。強引にロキルーに持って行った感は否めず。
恋愛関係ない話にするつもりだったんですけどね…。
ちなみに、書いてる間中エンドレス状態で金爆の「春が来る前に」を聞いてました。