古い映画のように




祝福の声が飛び交う。
にこやかにそれを受ける一組のカップル。
やがてクリスタルトーキョーに君臨するだろうキングとクイーンの誕生に誰もが喜びの声をあげた。
花嫁であるプリンセスの瞳の奥に微かな苦悩が宿っている事も知らずに。
護衛の任に当たっている、天王星の戦士の瞳にも翳りが浮かんでいる事も知らず。




「……見守ると決めたのでしょう?はるか」

今更、後悔しているのかしら?
美しい海王星の戦士が揶揄する。

「―――みちる」

寄り添う二人はまるで恋人同士のようで、けれども二人の間には甘い感情など流れては居なかった。

「未練がましいと思うだろう?」

突き放したのは僕だ。
自嘲する青年の姿に傍らの相棒は美しい眉をしかめる。

他の人を愛している事に気付いてしまったのに、地球の王子と結婚する事など出来ない。

そう涙ながらに訴えたプリンセスを叱咤し、正当な歴史を紡ぐ為に己の想いを封じ込めた青年。
端正なその顔に浮かぶ苦渋の色。

「僕は愚かだ。彼女が愛した男とやらが、攫っていってしまえばいい、なんて思っている」

冷ややかなテノール。

「これから先、気が遠くなる程長い時間、あの二人の姿を見る位なら僕の知らない所で幸福になってほしいなんて」

片頬を流れ落ちる涙。
亜麻色の髪が風に揺れた。

「はるか」

相棒の想いに気付いたのは確か彼が女性形を取る事を拒むようになった頃だった。
青年の姿を取り続ける天王星の戦士は以前にも増して目立つ。
現に今も、彼を遠巻きに眺めた女性陣からは無邪気な歓声が上がっていた。
ふと、花嫁姿のプリンセスが彼をじっと見つめている事に気付いて苦笑する。

「告げてしまえばいいでしょうに」

あんな目をして見られているのに、無視をするなんて愚かではないか。
あの目は恋をする瞳。

「まだ間に合ってよ、はるか」

遥か遠く、天王星まで連れ去ってしまえばいい。

「即位されていない今なら、想いを告げるくらい許されると思わなくて?」
「……君は時々、怖い事を言うんだな」

驚いた顔の彼はけれど、何かが吹っ切れたように笑った。

「――行ってくるよ」

助けてあげて頂戴。
きっと、貴方だけが私達のプリンセスを救う事が出来るのだから。

遠ざかる背中を祈るように見つめた。
花嫁の前に跪く真っ直ぐな背中。









―――――――――視線の先で、純白のベールが空に舞い、花束が放り投げられて周囲がどよめく。











その日、花婿の手を振り切った花嫁は天王星の戦士の手を選び取った。
古い映画のように、けれど映画とは違ってとても幸せそうに微笑みながら。