ただ、ひたすらに。




操栖にとって、矢頼はまだまだ子供だった。
どんなに頼りになろうと、どんなに体格が発達していようと。
そして、精神的にどんなに大人びていようと、絶対的に子供だったのだ。
だから。

「傷跡なんてオレは気にしねーからよ」

油断していた。
腹部の手術跡を気にする自分に掛けられた声。
いつのまにか、男としての視線で見られていた事に気付いてしまった。
いつのまに、彼はこんな表情を浮かべるようになったのだろう。
どうして、こうなってしまったのだろう。
これではいけないと、そう思う。
離れなくてはいけない。
さりげなく、何気なく。
今はいい。
今は―――口喧しく常識をあげつらう輩が居ないこの島では、教師と生徒が情を通じた所で問題にはならない。
けれど、日本に帰りついてしまえばそんな事を言っていられないのだ。

「……ごめんね……」

女子生徒と恋に落ちて、幸福な人生を送ってほしい。
誰にも……そう、今自分を抱いている矢頼にも聞かれないようにそっと呟いた。
密やかに流された涙。
それは、訣別の証。
操栖はただひたすらに見つめる。
―――――未来を。










やらくる。
操栖先生は色々考えていそうな気がする。