彼女の幸福



平和になった。
そう実感する日々。
少し前まで、強大な敵……ギャラクシアと戦っていたのが嘘のような平穏な毎日。
文句なく穏やかで幸福な日々を送っているはずだった。
だが。


「うさぎちゃん、大丈夫?」

次期クイーン。
前世からの定められた恋人と結ばれ、幸福になるはずの少女はどこか浮かない顔をしていた。
ぼんやりしている事が多い。
何か憂えているのだろうかと、亜美は声をかける。

「ううん。何でもないよ、心配掛けてごめんね」

明らかに作られた笑顔で答えるのに、ちょっと眉を寄せた。

「ちゃんと寝てるの?」

顔色が悪い。

「うん、寝てるよ」

泣きたくなった。

「ねえ、公園……行かない?」

寄り道の定番。
公園入り口で出ていた屋台の鯛焼きを一つづつ購入して、子供たちのいない公園のベンチに腰掛けた。

「亜美ちゃん心配し過ぎだよぉ」

困ったように笑う、その顔にため息をつく。
……本当に、この子をクイーンにしていいのだろうか。
不意に、疑問がわいてくる。
だってまだ自分達は高校生だ。
なのに、もう未来を知ってしまっている。
本当の女子高生なら、きっともっと違っただろう。
ましてや。

「…………うさぎちゃん、本当に幸せなの?」

この年齢で、結婚すべき相手まで決まっていて、生まれてくる子供の事までもが決まってしまっていて。
自分なら息がつまりそうだ。

「……亜美ちゃん……」
「まだ、やり直しはきくのよ?他の相手を選んだっていいのよ?……未来は、一つじゃないんだから……」

いつの間にか、自分が泣いている事に気付いて、亜美は謝る。

「ごめんね、これは私が口を出す事じゃないわね」

けれど。
なぜ誰も言わないのだろう、何かがおかしいと。
世界を維持するため?
未来を壊さないため?
自分達の幸せの為にこの少女を犠牲にしてもいいと、思っている?

「………ありがと、亜美ちゃん」

短い沈黙の後、うさぎが小さく呟いた。

「あたし、まもちゃん以外と恋愛してもいいんだよね?誰も、怒らないよね?」

まるで親とはぐれてしまった子供のようなか細い声。

「………無理して、クイーンになんかならなくってもいいよね?」
「他に、好きな人がいるのなら……心のままに」

答えると、うさぎは嬉しそうに笑った。
思えば誰一人として、うさぎの気持ちを確かめた事がなかったような気がする。
プリンセスセレニティは、プリンスエンディミオンと結ばれ、クイーンとキングとして即位すると誰もが決めてしまっていたから。

「ほんとに、ありがとう…亜美ちゃん」

たとえ未来が変わってしまったとしても。
この少女の笑顔が、戦士たちの幸福なのだから。









あの世界で、あのメンバーで、これを言えるのは内部戦士ではマーキュリーだけかなと。